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複雑な臨床問題へのアプローチ

「ただ見守る」「少なくとも見捨てない」ということ

家庭医療における行動原則は、特定の個人、家族、地域に継続的に関わるところにあります。対応する健康問題は狭い意味での生物医学的疾患にとどまらず、心理、社会、文化、倫理的な次元を含んでいることが多くあります。

また高齢社会を迎える中で、医療需要度が高く、急性期対応も必要とする在宅医療や緩和ケアを家庭医が担う場面が増加してきており、これまでの外来主体型家庭医では経験しえなかった複雑な問題に対応することが求められています。症例を提示します。

〔症例〕92歳男性。老年期認知症があり、若いころから家族支配的で、長男とは没交渉。長男の孫娘と二人暮らし。孫娘が祖父の介護を担っている。最近、癌が発見され癌の多発性肺転移(左胸水あり)もあり、年齢からも、癌の進行度からも積極的治療の適応なく、在宅緩和ケアを依頼された。長男のお嫁さんと孫娘さんに予後(約1〜3か月)の説明と今後の多職種(介護認定も急ぎ実行)での関わりを話をしたところお嫁さん、孫娘さんとで看取りも含めて自宅で看ることになった。

以上の症例の中で、長男さんとご本人さんとでこれまでどのようないきさつで没交渉になったのか、それでも長男さんの娘さんが長男自身の父親の世話を焼いているという状況の複雑さ(長男さんが娘さんをどのようにとらえているのか)が今後のケアでどのように影響・展開するのか、といった混沌とした(Chaoticな)問題を含んでいます。関わり始めたところであり、まだまだ今後の状況理解にかかっていますが、特に介入がどのような結果をもたらすのか予測できない複雑性を感じます。このような複雑困難事例については、これまでの経験から「安定させる」「落ち着かせる」という目標設定が適切であることが多いと感じています。

複雑性がもっと高い事例では「ただ見守る」「少なくとも見捨てない」ということしかできない場合もあります。家庭医療に取り組むすべての専門職にとって意気消沈することもあるかもしれません。しかし、複雑系の系統的な評価、有効なチームの形成、患者中心のコミュニケーション、そして自身の施設の外に出て地域の力を借りることが助けになることが多いのです。

そして、たとえ問題解決が不可能であっても、見捨てない、見守る、それなりに落ち着いた状態にする、ということに十分な価値があると思うのです。

 
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