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平成29年3月、改正道路交通法施行に思う

 

認知症高齢者の排除が始まる?

 

平成29312日、改正道路交通法が施行されました。2016918日に発表された総務省統計局のデータによれば日本の65歳以上(高齢者)の人口は2016915日時点で3461万人となり、総人口比は27.3%となることが分かりました。21%を超えた社会を「超高齢社会」といいますが、「超高齢社会」の日本が抱える難題は山積しています。

 

高齢者による交通事故もそのひとつです。これまでの道交法では75歳以上のドライバーに対し、3年ごとの運転免許更新時に認知機能検査が実施されていました。それにより「認知症の恐れがある」(1分類)「認知機能が低下している恐れがある」(2分類)「低下の恐れなし」(3分類)の3段階による判定が行われています。

 

しかし、認知症の疑いが強い「1分類」に判定されても、信号無視などの違反をしていなければ医師の診断は不要で、運転を続けられました。2013年の免許更新時の検査では、1分類と診断されたのは約35000人。そのうち、違反があって医師の診断書を提出したのは524人で僅か1.5%。診察で認知症と診断され、運転免許が取り消しや停止処分となったのは118人でした。

 

今回の改正では、認知機能検査で「1分類」に判定された場合は、医師の診断を義務とし、認知症と診断されれば免許取り消しや停止処分となりますそれに対して精神科医ら16000人でつくる日本精神神経学会は23日、「認知症と危険運転との因果関係はまだ分かっていない」とする意見書を警察庁に提出しました。高齢者の交通事故増加はあくまで、社会全体の高齢者の割合が増加しているためだとしています。

 

 意見書では「特定の病名を挙げて免許を制限することは、患者への差別」と主張。認知症診断の判断材料となる短期記憶障害も、運転に与える影響は少ないと指摘しています。さらに医師は「疑い」も含めて病気と診断する傾向があるため、運転に支障がない人の運転の権利までが剥奪されることを危惧しています。

  

2014年に死亡事故を起こした75歳以上の高齢者の約4割が、認知機能検査で第1と第2分類だったとのことですが、それは裏を返せば6割の死亡事故は認知機能検査で問題ないとされた第3分類の高齢者が起こしたもの、ということでもあります。もし高齢者の運転による死亡事故全体を減らしたいのであれば、「第3分類の人達に免許を返上して貰えばいいのではないだろうか」という論理が成立します。当然そんなことはできません。

しかしながら認知症患者さんの免許返上に対しては「病気だからしょうがないよね・・・」で済まされ、管理する側にとっては手っ取り早く免許を取り上げることが可能となり、1分類や第2分類の人達は「認知機能検査の点数が低かった人達」ということで、一括りにしやすくなります。カットオフの点数を1点下回ろうが10点下回ろうが、同じ「認知機能検査の点数が低かった人達」というカテゴリーで括ることが出来ます。

 

地方で生活する高齢者にとって、主な移動手段である車の運転を続けられるかどうかは、文字通り「死活問題」であります。都会と違って公共交通機関は発達しておらず、数少ない路線も採算がとれなければ容赦なく撤廃されます。このような環境では、車は正に「命綱」です。

 

私は佐田岬半島の旧瀬戸町で僻地医療に従事していましたが、町内には信号もなく高齢者はほとんど事故もなく運転をされていました。長年やってきて定着している「手続き記憶」に頼るところが大きいからでしょう。

 

(いい介護どっとこむより引用)

 

少し古いデータ(現在では、このグラフより上方修正されています)ではありますが、これは認知症患者数の推移を示す2008年のグラフです。このグラフから2005年から2015年にかけて、約50万人患者数が増えています。

 

(社会実験データ図録より引用

 

そしてこれは、人口10万人当たりの交通事故死亡者数の推移をみたグラフ。平成17年からの10年間で、全年齢層と65歳以上、いずれも40%以上交通事故死亡者数は減少しています。

 これらの二つのデータから分かるように、少なくとも今の時点では認知症患者さんが増加すると共に、死亡事故全体が増えているわけではありません。

 

 平成24年の65歳以上のドライバーの交通事故件数は、10万2997件。10年前の平成14年は8万3058件だから、比較すれば約1.2倍に増えています。これだけを見れば確かに「高齢者の事故は増えている」と思ってしまうでしょう。しかし、65歳以上の免許保有者は平成14年に826万人だったのが、平成24年には1421万人と約1.7倍となっています。高齢者ドライバーの増加率ほど事故の件数は増えていません。
 

また、免許保有者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は17%。しかし、全体の事故件数に占める高齢者ドライバーの割合は16%で、20代の21%(保有者割合は14%)、30代の19%(同20%)に比べても低いことがわかります。

 

(社会実験データ図録より引用)  

 

こちらは、死亡事故を起こした運転者の年齢層別死亡事故件数のグラフですが、24歳以下と75歳以上という明確な二層化が見てとれます。この二層化は常識的に考えると、運転年数の短い若者は無謀な運転をしやすく、高齢者は判断力が落ちて事故を起こしやすいということだと思います。ただし、85歳以上は全ての年代の中で最も事故件数の割合が高くなっています。

 

(認知症スタジアムより引用)

 

年代別の認知症高齢者の割合を見ると、85~89歳の高齢者の41.4%は認知症とされます。

これは、80~84歳における21.8%と比較して、およそ倍です。倍増というデータは重視する必要があります。85歳以上になれば認知症の影響で事故を起こす危険性はかなり高くなってくると言えるのかもしれません。

 

ところで、高齢者が交通事故を起こす原因は様々でしょうが、認知症の方が交通事故を起こした場合、その原因を果たして認知症だけに求めることが可能なのでしょうか。信号を無視してしまったとき、それは「認知症だから信号を無視した」と判断出来るでしょうか。健常高齢者が信号を無視した場合、それは「うっかりしていた」で済まされるでしょう。 認知症患者が「うっかりしていた」と言っても、それは「認知症だからうっかりしてしまった」とされるのでしょうか。

 

認知症と診断して運転免許を取り消すということは、非常に重大な行為です。特に、車に替わる移動手段の選定や、どのようにして生活物資を確保するかなど、代替案のないまま運転免許が取り消されるようなことがあってはなりません。

その代替案は、医療や福祉、民間サービス会社、行政、勿論警察も含めて、つまり社会全体で考えていくべきものです。だからこそ医療機関への診断丸投げや押し付け合いのようなことは止めていただきたいのです。

 

以上述べてきたことより、高齢者が起こす交通事故は、認知症が主な原因ではないと言えるのではないでしょうか。日本精神神経学会の法委員会担当理事で精神科医の三野進氏は「そもそも年をとれば視力や聴力も落ち、運転は危なくなりがち。総合的な危険性を判断する対策が必要で、認知症だけを排除しても意味がない」と言います。まさにその通りだと考えます。

 

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