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IPW と ACP と ベスト・インタレスト論と

いのちの終わりにどうかかわるか

 

IPW(interprofessional work)について

   令和元年10月27日(日曜日)午後1時30分〜午後3時、「八幡浜市保健福祉センター」で日本赤十字看護大学大学院教授の田村 由美先生をお招きして、「在宅医療・在宅ケアにおける多職種連携協働」と題して講演会を開催しました。
 講演には、八幡浜市、大洲市など多職種の方々63名が参加されました。

 

   在宅療養では訪問型のサービスが基本となります。訪問診療や訪問看護、訪問介護という“点”の関わりを積み重ねる中で、刻々と変化しうる状況を把握するとともに、適切な介入を行わなければなりません。この制約を乗り越えるためには、関わるすべてのスタッフが周到に情報を共有し、“面”として治療やケアにあたる必要があります。


 近年、チーム医療を表すinterprofessional work(IPW)という概念が広まってきています。IPWとは“患者さんのために”お互いの役割分担と責任を明確にし、共通の目標目的をもって協力して取り組むチーム医療を意味します。実現のためにはメンバーが互いに意見を出し合い、議論できる関係性が求められます。

  

   これまで、毎月第1金曜日に開催してきました「在宅緩和ケア症例検討会」でもしばしば話題となった“臨床倫理コンサルテーション”や“ACP(アドバンス・ケア・プランニング)”を実践するとき、根底となるのはIPW(多職種連携協働)の理論・考え方です。このような意味からも、田村由美先生のご講演は今後の在宅医療研究会の勉強方法や運営方法について示唆に富む内容でした。

 

ACP(advance care planning) のはじまり

   アドバンス・ディレクティブ(AD)の目的・目標が事前指示書の完成で、誰にも相談せず患者さん一人で実施可能です。1975年のカレン・アン・クインラン事件(1975年に米国で発生した出来事。パーティで意識消失後、心肺停止をきたし、人工呼吸器管理しましたが、のちに両親が人工呼吸の中止を希望したのです。最終的にはニュージャージー州の裁判所で取り外しが認められ、人工呼吸器を取り外したところ、自発呼吸が回復して9年後に亡くなったという事件です。これは世界で初めて人工呼吸器を止めるということを法的に認めた判例です。)後、米国ではAD推進の機運が高まりました。1990年:患者自己決定法成立(PSDA:Patient Self Determination Act)ADが法的効力を持つようになったのです。

 

    しかし、書面上の意思と実際の病状に隔たりが生じる場面が多くあり、意思を適用できない例が頻発したのです。その後、意思決定支援の在り方を模索する中でACPが議論されるようになり今日に至っています。

   ACPの先駆けは、米国ウイスコンシン州ラクロス地域で開発された意思決定支援の包括的アプローチのプログラムRespecting Choicesです。Respecting Choicesの特徴は、事前指示(AD)の完成自体を目的に据えなかったことです。ADを取得していく話し合いのプロセスを通して、人々の意向をあらかじめ聞き、理解しておくことで、人々が自身の意向に即した医療やケアを受けられる地域社会の形成を目標に置いたのです。

   したがって、ACPは患者さん一人では実施できません。そしてその目的・目標は話し合いによる相互理解です。まさにIPWの理念が生かされる場面です。

 

ベスト・インタレスト(best interest)という態度・姿勢

   日本の成年後見制度は1898年に始まった禁治産制度および準禁治産制度が100年ぶりに改正され、「自己決定の尊重」「残存能力の活用」「ノーマライゼーション」と「保護」の調和という理念のもと、2000年に介護保険制度との“車の両輪”としてつくられました。

 

   しかしながら、成年後見制度の活用は十分に進んでいるとはいえません。成年後見制度には、「後見」「保佐」「補助」の3類型がありますが、日本ではいまだ本人から一律に権限を取り上げる「後見」の利用が中心であり、制度設計上も身上監護の位置づけが弱く、諸外国に比べ本人のための意思決定・生活支援制度としての認識が関係者でさえ薄いものがあります。

 

   また、日本の成年後見制度は法律上、財産管理を中心に展開されており、その実務運用も裁判所や後見人目線による「保護」の姿勢に偏りがちです。その観点から、イギリスの成年後見制度の根幹をなすベスト・インタレスト(あえて和訳すると、「その人らしい生き方を模索すること」)の理念が参考になります。

 

   イギリスの成年後見制度は、本人の生活全般(医療の場での自己決定も含む)に関わる各々の意思決定を行うにあたり、本人が自己の判断能力だけでは果たせない部分を、その部分に限り、周囲が関与することを法的に許容するという姿勢をとっています。

イギリス2005年意思決定能力法(MCA2005:The Mental Capacity Act2005)が追求する「ベスト・インタレスト」とは、同法が達成しようとしている目標、指針を端的に表す理念です。

 

   同時に本人に代わって意思決定を行うすべての「他者」に対して、独断的価値判断の押し付けや、専横的道徳主義を避け、自らの行為を慎重に見直すことを求める「法」です。その根幹をなすのが、「ベスト・インタレスト論」です。私たちが、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を進めて行く上で、「ベスト・インタレスト論」の考え方を実践に援用できると考えています。

 

   本人自身による自己決定を最大限に支援し、あるいは、本人の主観的要素に十分に配慮しながら、「ベスト・インタレスト」に適った決定を行うという一連の作用は、後見を、単なる代行決定ではなく、本人と意思決定権限者が共同して決定に臨む「支援された意思決定(assisted decision-making)」や「シェアされた意思決定(shared decision-making)」へと転換させていく可能性を秘めています。

 

   ベスト・インタレストを考えるためのチェックリストは、医療の現場でアドバンス・ケア・プランニングを実践するうえで、役立つツールとして援用したいものです。

  

ベスト・インタレストを考えるためのチェックリスト

1 本人の年齢や外見、状態、ふるまいによって「ベスト・インタレスト」の判断を
  左右されてはならない。
 「ベスト・インタレスト」の特定に関係すると合理的に考えられる事情につい
  ては、全てを考慮したうえで判断しなければならない。
3 本人が意思決定能力を回復する可能性を考慮しなければならない。
4 本人が自ら意思決定に参加し主体的に関与することを許し、促し、またそう
   できるような環境をできる限り整えなければならない。
5 生命維持に不可欠な治療を施すことが本人の「ベスト・インタレスト」に適う
   か否かの判断が問題になっている場合には、絶対に、本人に死をもたらした
   いとの動機に動かされてはいけない。
6 本人の過去および現在の希望、心情、信念や価値観、その他本人が大切に
   している事柄を考慮に入れて「ベスト・インタレスト」を判断しなければならな
   い。
7 本人が相談者として指名した者、本人の世話をしたり本人の福祉に関心を
   持ってきた人々、任意後見人、法定後見人等の見解を考慮に入れて「ベスト・
   インタレスト」が何かを判断しなければならない。

       (Section 4 (1)-(7) of the Mental Capacity Act 2005

 

 

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